イーサリアム(Ethereum)の共同創業者であるヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏が、イーサリアムの将来像に関する一連の見解を投稿し、2026年を自己主権性(self-sovereignty)とトラストレス性(trustlessness)を回復する重要な転換点と位置づけた。自身のXにて1月17日と18日に報告している。
ブテリン氏は17日の投稿で、「2026年は、自己主権性とトラストレス性という点で、失われた地盤を取り戻す年になる」と述べ、イーサリアムがこれまで追求してきた価値観を再び前面に押し出す方針を示した。
この投稿では、フルノードを自前のコンピュータで容易に運用できる環境の再構築、RPCへの過度な依存からの脱却、プライバシーを保ったdApp利用、セルフカストディを前提としたウォレット体験の改善などが挙げられた。ブテリン氏は、第三者を信頼せずにイーサリアムを利用できる状態こそが本来の姿であるとの認識を示した。
また同氏は、過去10年間におけるイーサリアムの変化についても言及。ノード運用はかつて容易だったものが次第に困難になり、dAppは静的ページから複雑で巨大なシステムへと進化する一方、利用者データが複数の外部サーバーに送信される構造が一般化したと指摘。ウォレットについても、かつては利用者が任意のRPC(自身のコンピュータ上のノードを含む)を選択できたが、現在ではウォレット側が選択した複数のサーバーにデータが送られる仕組みへと変化したとしている。さらに、ブロック構築の集中が進み、トランザクションの包含がごく少数のビルダーの裁量に左右されやすくなっている点にも触れた。
ブテリン氏はこうした状況を踏まえ、「2026年にはこうした妥協を終わらせる」と述べ、主流採用を理由に価値観を希薄化させてきたこれまでの姿勢を見直す考えを示した。そのうえで、イーサリアムエコシステムのプライバシーとセキュリティを強化する暗号ツール群「Kohaku(コハク)」リリースや今後の複数回のハードフォークで、すべての課題が一度に解決されるわけではないとしつつも、その長い過程こそが、イーサリアムを現在の地位にふさわしい存在にし、さらに大きな価値を持つエコシステムへと成長させると述べている。
翌18日の投稿でブテリン氏は、こうした自己主権性やトラストレス性を実現する前提条件として、プロトコルそのものの「シンプルさ」が不可欠であると強調。ブテリン氏は、たとえ数十万のノードによって高度に分散化され、強力な暗号技術によって完全検証が行われていたとしても、プロトコルが極端に複雑であれば、本質的にはトラストレスでも自己主権的でもなくなると指摘した。
具体的には、プロトコルが膨大なコード量や複数の高度な暗号技術に依存する場合、利用者や開発者はごく一部の専門家の説明を信頼せざるを得なくなり、結果として「信頼不要」の前提が崩れると述べている。
また、既存のクライアント開発チームが撤退した際に新規参入が困難になる点を挙げ、こうした設計は「ウォークアウェイ・テスト」にも耐えられないとした。なお、ウォークアウェイ・テストとは、価値提案が「将来追加される機能」や「特定の運用主体の継続」に依存しなくても成立する状態を指すものだ。
さらにブテリン氏は、プロトコルの複雑化はセキュリティ面でもリスクを高めると指摘。構成要素が増え、相互作用が複雑になるほど、全体が破綻する可能性も高まるという。
こうした問題意識を踏まえ、ブテリン氏はイーサリアムの開発プロセスに明示的な「簡素化(simplification)」や「ガーベジコレクション(不要要素の整理)」を組み込む必要があると主張した。
後方互換性を重視するあまり、機能追加が削除よりも優先され続ける現状では、プロトコルは時間とともに不可避的に肥大化すると警鐘を鳴らしている。
簡素化の指標としては、コード量の最小化、不要に複雑な暗号技術への依存回避、プロトコル全体を単純化する「不変条件(invariants)」の導入などを挙げた。過去の例として、PoWからPoSへの移行や、特定の設計制約を導入したEIPがクライアント実装の簡素化に寄与した点にも言及している。
これら一連の投稿は、イーサリアムが短期的な機能拡張や利便性向上よりも、長期的に持続可能なワールドコンピュータとしての基盤を再構築する段階に入ろうとしていることを示唆するものだ。ブテリン氏は、イーサリアムの最初の約15年を試行錯誤の「思春期」と位置づけたうえで、今後は不要な要素が恒久的な負担とならないよう、進化の方向性をより慎重に選ぶべきとの考えを示した。
画像:あたらしい経済編集部


